僕らの背骨

その後数時間、誠二はそんな思考を巡らせながら、真理の下校時間を待った…。

重く長いその時間を、誠二はただ苦痛ではなく"快楽"とも感じていた。

その理由は、心に思い描いた時から今日この日まで、自身の存在はただ一人の為だけにあるのだと、そう…、"真理の為"だけに自分は生きているのだと誠二は自身で植え付け、一つの"宗教"にも似たその教えを、しっかりと揺るぎ無い救いとしていたからだった。

つまり今日という日にやっと、自らで背負ったその役割を現実的な行動として起こせるからこそ、この瞬間に感じている苦悩を誠二は"快楽"とも捉えられるのだ。


やがて時刻は一般的な高校の下校時間となり、誠二はトレイを返却口に置くと、コートを片手に持ち、その喫茶店を後にした。

帰る間際に誠二は入店時にいた店員を思い出したが、既にシフトのローテーションで彼女はおらず、レジには別の男性店員が立っていた…。


この季節らしい一日の気温の温度差は、誠二の"快楽"を一層強めていた。

早朝には凍える寒さをコートで覆い、夕刻前には照り付ける太陽が誠二の白い肌を射す。

そんな人間らしい生の体感が煩わしくもあり、また自身の体の奥底にある哀しみと希望を、その波長として肌身に伝えるのだ。

今日という日に生まれ、
そして全てが始まる…。

この無音の世界で、
誠二はたった一人で戦い、傷ついていた…。


誠二は清林学院へは向かわず、最寄駅へと足を進めた。

やはり校門の前で真理と接触するのは真理にしたら迷惑であり、人目についても不安があった。

誠二はまず真理を見つけて、尾行し、良きタイミングを伺う事にした。

誠二は駅に着くと選択肢を考えた。

この駅から尾けるべきか…、
もしくは真理の家の最寄駅からにするか…。

この駅からでは同じ制服の学生が多く、真理を見逃す可能性があった。

しかし、真理が家へ帰らず直接どこかへ遊びに行ったとしたら、帰宅を待たねばならない…。

秋子がいるあの家の前で…。

やはり家の最寄駅に賭けよう…。

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