僕らの背骨
コンビニはカラオケ店から30秒と掛からない場所にあり、紗耶との温度差を埋める作戦を考え出すにはあまりに短い距離だった。
真理はコンビニに入るとすぐに適当な飲み物を選び、早々にレジへと向かった。
普段はファッション雑誌をパラパラとめくったり、好きな少女漫画のコミックスが発売されていないかを確認するのが真理のコンビニでの通常の流れであるが、もちろん今はそんな余裕がない。
どうしても…、
今日は誰かに話しを聞いて欲しい…。
真理は取り敢えず最低限の親交を深める事を一つのノルマとして考え、多少なりとも紗耶がこの状況下で真理に心を開いてくれれば、今日の目当てである"あの手紙"について語ろうと思っていた。
レジで会計を済ませると、真理はふと入口に立っていた一人の男に目を奪われた…。
その男は一見して二十歳前後で身長が180㌢程の長身、細身の体を黒いタイトなコートで覆っていた。
胸元に見える白いシャツには今風の細くて黒いネクタイをしていて、一瞬真理目線でホスト風にも見えた。
しかし真っ黒な髪と装飾品の少なさから、ただのお洒落好きな人にも見え、真理は好奇心以上の感情が自身の内で芽生えた。
何故か棒立ちで真理を見据えているその男は数秒真理と視線を交わすと、そのまま真理に近づき、男性とは思えない程の綺麗な肌ツヤを真理に見せながら視線をレジ横に陳列された新聞に移し、それを掴んだ。
「…あっ、すいません。」
すっかりレジの前に立ったままだった真理は自分が邪魔な事に気付き、小声で謝罪しながら場所を譲った。
正直、真理の中で"運命の出会い"的な直感が脳裏を過ぎったが、"普通じゃない"出来事は一日一回で十分である。
無意味にレジの横で突っ立っていた真理は、その男が会計を済ませる前に店を出て、カラオケ店に戻った。
中に入ると紗耶の姿が見えず、真理は呆然とした。
帰ったのかな…。
まだあの話ししてないのに…。
真理は落ち込みながらソファに座ると取り敢えず携帯をチェックした。
しかし、紗耶からのメールはない…。
真理にしたらこのまま帰るのも不完全燃焼で、それに"一応"友達だと解釈していた人間にこうも冷たくあしらわれた事にショックだった。