僕らの背骨
思わず誠二は開いていた雑誌で顔を隠すと、ゆっくりと目を閉じ、記憶にある真理の写真を鮮明に蘇らせた。
間違いない…、真理だ…。
本屋に入って来た真理は誠二を見る事もなくファッション雑誌の前に立ち止まり、目に入った雑誌を手に取ると、そのまま立ち読みを始めた。
誠二にとって、これが実物の真理との初めての対面である。
真理は誠二が予想していたよりは小柄で、その幼い顔立ちはやはりまだ少女と言えた。
誠二と同い年であるのに、真理は誠二より遥かに若く見えて、健康的なその肉体には張りがあり、また少女らしい乳臭さも感じられた。
この日をどれだけ待ち侘びた事か…。
何も知らないであろう君は、突然現れる男にきっと困惑するだろう…。
耳の聞こえない見知らぬ男が突然現れ、『俺は君のかけがえのない存在なんだ。』などと書かれたメモを見せてきたら…。
真理は間違いなく誠二を頭のネジが緩んだ変質者だと判断するだろう。
しかし…、
その場で真理に全てを理解させる事は恐らくどんな説明でも無理だ…。
大きく掛け違えた真実のズレは、もう真理の中では揺るぎ無い真実であり、15年という長い年月で形成された真理にとっての生活の"背景"は、まさしく真っ白な世界である。
誠二にとってのその悲しい事実は、今日という日に重い足枷として露呈され、仮に予期していたにしろ、結果、解決策はないのだった。
そして誠二は何気なく携帯を開いた。
−まだ無視するの?(:_;)
せっかく会いに来たのに…。−
昨日自宅マンションに莉奈が来た際、それを無視した誠二に莉奈が送ったメールである。
誠二は静かにため息を漏らし、携帯をポケットに戻した。
一体、莉奈に何を話せば良いんだ…。
会えば莉奈はあの時と同じように否定し、全てを元に戻そうとする…。
自分の寂しさがそうさせているのならまだ事は簡単だった。
順応という時間経過がいずれそれを忘れさせるから…。
ただ、誠二を想っての行為なら、きっと事は複雑になる。
もし莉奈が真理に会いに行ったら…。
誠二はそんな莉奈の行動を恐ろしいとさえ感じていた。