僕らの背骨

誠二が雑誌からふと視線を上げると、真理がレジに立っていた。

ファッション雑誌を購入した真理はそれをバッグに入れながら本屋を出て行った。

誠二は雑誌を棚に戻し、真理を尾行した。

駅を出ると外は既に色付いた夕日に包まれていて、少し冷たい風が真理にも同じ角度で優しく吹いた。

こんなにも近い距離に真理を感じ、
この瞬間にも同じ景色を共有している…。

誠二はまるで、下校中に初恋の相手を付け回す哀れな男の子のように、真理の背後から十数㍍の間隔を空けて同じ方向に足を進めていた。

もちろん真理にはその誠二の存在が気付けるはずもなかったが、仮に同じ方角へ向かっている背後の男に気付いたとしても、決して誠二をストーカーだとは思えなかっただろう。

これは社会における悲しい不変の事実でもあるが、やはりルックスによる偏見は誰にとっても拭い去れない感情なのだ。

真理の背後に迫る男が小太りの醜い中年なら、誰しもがその男を変態ロリコンストーカーだと判断する。

しかし身なりの整った紳士なら…、たまたま方角の一致と判断出来る。

もっと極端に、真理を尾行しているのがニューハーフだとして、仮に真理がそのニューハーフを男性とはっきり認知出来たとしても、一般常識からしてそんなルックスの人物が女子中学生に性的嗜好があるとは思えず、その男をストーカーだとは決して思えない。

そんな一般的なルックスでの偏見を考えれば、美し過ぎる程の美貌を備えた誠二は、まさしくストーカーという概念からは除外される。

誠二本人にそこまで打算的な余裕はなかったが、尾行を気付かれる程近い距離間ではなかっただけに、ある意味では尾行自体に余裕を持てていた。

程なくして真理の自宅付近まで来ると、誠二は少なからず慌てた表情をしながら物陰を探し、今朝秋子を視認した場所で真理の帰宅を見守ろうと気持ちを抑えた。

誠二が物陰から見守る中、真理は鉄製の門を開け、自宅のポストから新聞や数枚の封筒を取り出した。

真理は何気なく封筒の宛名などを確認し、誠二に背を向けてドアの前まで来ると、その瞬間、時が静止した…。

一通の封筒を手に持ち、ただそれを凝視しながら真理は何故か硬直していたのだ。

< 42 / 211 >

この作品をシェア

pagetop