僕らの背骨

ゆっくり歩き始めた真理は、また駅の方へ向かった。

誰かに会うのだろうか?
さっきの手紙の人物か?

誠二はまた答えの出ない疑問を頭に巡らせていた。


次第に辺りの夕焼けは薄くなり、暖色から冷たく暗い青に変わっていった。


真理は駅のホームにあるベンチに腰掛けると、携帯を手に何やら文章を打ち始めた。

誠二はその真理の姿を見て、メールなら先程の手紙とは無関係だろうと判断した。

お互いに携帯のアドレスが分かっているのなら、差出人がわざわざ手紙で何かを伝える訳がない。

真理が携帯を閉じて数分後、早々に真理の携帯が誠二には"無音"で鳴り響き、それと同時に電車がホームに着いた。

その電車に真理が乗車したのを確認すると、誠二は隣の車両に乗り、真理が辛うじて視界に入る位置に陣取った。

友達に会うのだろうか?

それとも家にはいたくない気分なのだろうか…?


都会に向かう夕刻過ぎの上り電車は見事ラッシュを避けられ、広々とした空間で真理と誠二の距離間は自然と慣れ親しんだ空間にもなっていた。

子供っぽい表情で流れる景色を眺める真理は、誠二にその横顔を妖艶にも見せ、抑え切れない誠二の胸の苦しみをより一層強めた。

真理…。

こんなにも近くにいて、何故優しく寄り添う事が出来ないのか…。

君は今こうして無意識に俺を深く苦しめているというのに、君自身は"無知"という名の膜で痛みから遠ざかっている…。

背負った"十字架"は同じだというのに…。


目的の駅に着くと真理は電車を降り、寒風を煩わしそうに腕を摩りながら改札を抜けた。

誠二は相変わらず真理との距離を保ちながら尾行し、その駅から程近い雑居ビルに真理が入ると歩を止め、店先で真理が出て来るのを待った。


その時、誠二の携帯が振動した。


−莉奈、真理さんに会いに行く。
誠二がしようとしている事とは少し違うけど、莉奈は自分がするべき事をする…。−


その莉奈からのメールは、誠二の胸を激しく鼓動させ、怒りにも似た感情を誠二の中で生み出していた。

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