僕らの背骨
誠二は県内トップの私立中学で最も容姿が良く、頭脳明晰、そして"障害者"…。
耳が聞こえないというその大きな特徴は、クラスメイトであった莉奈の目から見て"魅力"以外の何物でもなかった。
障害を抜きにしても、極力人付合いを避けていた誠二を莉奈は謎めいた美男子として認識していて、三年間誠二と奇跡的にも同じクラスでいられた事を運命とも捉え、また恋心を膨らませていた。
とある日、莉奈は心を決め誠二にラブレターを渡すと、誠二は翌日学校で莉奈の靴箱に返事の書かれた手紙を置いた。
内容はごくシンプルで、
−俺で良ければ。−
というものだった。
誠二が靴箱に手紙を置いた事から、普通ならあまり他人には関係を知られたくないという意図は伝わるが、その誠二からの手紙を見た莉奈が嬉しさのあまりクラス中の友達にそれを言い触らした事は言うまでもない…。
その日から誠二にとって煩わしい日々が始まった訳だが、莉奈にしたらそれは至福の日々だった。
もちろん莉奈にも多少なりともその誠二の困惑に気付いたが、事が急速に進行している以上、求愛の重みに身を任せるしかなかった。
誠二もまたその重みを幸福だと思い、体温の共有を日々重ねていった…。
やがて二人に順応の兆しが現れると、莉奈は誠二をより深く知ろうと考え、とある日に誠二にこう聞いた。
「誠二のお母さんって亡くなったん?」
誠二は莉奈の唇の動きを見ると、メモにこう書いた。
−父も母も死んだ。
莉奈が俺の父だと思ってる人は叔父だ。−
莉奈は自分の質問を恥じた。
誠二は莉奈が思っていた以上に根深い生い立ちを背負っていて、その痛みを自分の短絡的な質問のせいで思い起こさせてしまった…。
しかし誠二を守ると心に誓った以上、莉奈は逃げる事はしなかった。
誠二の為に…、
そしてその誠二をこれからも好きでいる為に…、莉奈は質問を重ねた。
「どうして亡くなったん?」
誠二はメモを書いた。
−父は火事で…、母は自殺だ。−
莉奈はそのメモを見て胸が張り裂けそうになった…。
こぼれる涙は頬を伝い、莉奈はそれを見せまいと顔を伏せた。