僕らの背骨
莉奈は内心これから誠二を支えられるか不安になった。
自分よりもっとしっかりした人が誠二には相応しいのではないだろうか…。
不安は涙となって現れ、隠す事の出来ない心情を素直に見せていた。
ふと誠二が莉奈の手に触れると、莉奈は新たに書かれたメモに気付いた。
−俺は笑顔の莉奈が好きだよ。−
莉奈はメモを見ると吹き出した。
初めて書いてくれた"好き"という言葉を、どうしてこのタイミングで?と莉奈は思ったのだ。
待ちに待っていた誠二からの"告白"は莉奈を心底喜ばせ、その笑顔を見る誠二の表情もまた、優しく穏やかだった。
こんな日がずっと続いて欲しい…。
誠二の"背景"を知ったからこそ、莉奈はそんな日々を深く望んでいた…。
莉奈は自転車を走らせながら、その日が…、二人が温かく穏やかでいられた最後の日であったと知った。
広がる山々の景色は季節に彩られ、幸福の日々は遥か昔の出来事なのだと、その色の変化で伝えているようだった。
{8月14日 PM 3:25}
ふと感じる誠二の体温は、その余韻を今でも莉奈の肌に触れていて、ゆっくり瞳を閉じると、自分の唇の動きに真っ直ぐ視線を向ける誠二の美しい顔立ちが現れる。
吸い込まれそうなその視線に我慢出来ずに、莉奈は唇を重ねる…。
そのまま無意識に触れた誠二の細い指は冷たく、絡ませようと莉奈が意識すると、その気持ちを見透かすように触れた指が絡んでくる。
抑え切れない莉奈の恍惚は頬を朱色に染め、鼓動と吐息を気付かせまいと莉奈は一瞬身を引く。
3㌢の間隔を空けた唇は少し濡れていて、それを見た莉奈は力の抜けた自分の体を何とか支えようと気を張った。
しかし、ふと糸が切れたように体が倒れると、誠二はその体を優しく抱き寄せた。
そのまま肌を擦るように首に顔を埋めると、誠二の匂いが莉奈を包んだ。
「このままにしとって…、ずっとこのまま…、抱きしめとって…。」
誠二の耳元で、莉奈はそう言った。
「恥ずかしいけん…、これは聞こえんくてもええよ…。」
{10月29日 PM 5:09}
莉奈は自転車を止めると、下を向いて泣き出した。
今もう、その誠二の体温に触れる事は出来ない…。