僕らの背骨
莉奈の肌を伝うその感触は次第に薄れ、ほんの微かに鼻先をかすめた誠二の匂いもまた、柔らかな風に流され消えた。
涙を拭い、莉奈は自転車に乗ると、また広がる山々を背景に走り出した。
しばらくして自宅アパートに着くと、莉奈はポストを見た。
メールの返信も、自筆で書いた手紙も、返事は来ない…。
莉奈は数日前に誠二の東京での住所を誠二の叔父から聞き出した。
誠二の叔父はもちろん誠二から自身の所在の口止めをされていたが、数週間の懇願の末、孤独に耐えられなくなった莉奈は急に誠二の叔父の家の玄関で泣き崩れた。
すると誠二の叔父は莉奈の肩を優しく抱き、誠二の東京での住所が書かれたメモを渡した。
莉奈なりに"女の最終兵器"を駆使したつもりだったが、誠二の叔父は莉奈に情を持った訳ではなく、自身で誠二を心配してそう配慮したのだった。
血縁である誠二が単身東京に住み、少年では背負いきれない生い立ちを抱えて孤独と闘っている。
そんな誠二の姿を想像すると、"近親者"として何かをしてやりたかったのだ。
もちろん誠二の叔父は自身で東京に行く事も考えたが、それは誠二にとってはただ煩わしい事であり、同時に自己満足だと分かっていた。
だからこそ、唯一誠二が心を許した莉奈に、一つの希望を抱いたのだ。
「どうか負けないで欲しい…。
その孤独に…。」
叔父はそんな伝言を莉奈に託し、東京までの旅券や宿泊等の手配をした。
莉奈は遠慮する事なくその配慮に甘えた。
もちろん自費だったとしても莉奈は親の金を盗んででも行くつもりだった。
敢えて受け取ったのは、莉奈は誠二の叔父からのその"希望"を認知する事で、もう誠二を一人ぼっちにはさせないという"責務"を自らで背負いたかったのだ。
その背負った存在が、もし誠二から拒絶された時に、それが一つの保険として莉奈にのしかかり、簡単には帰らないという意思の後押しになるのだ。
{10月31日 PM 3:46}
莉奈は二、三日の準備で山口県を発ち、その日の夕方、東京に着いた。
そしてこんなメールを誠二に送った。
−(^0^)/莉奈東京に来たよ!
実は誠二の叔父さんに旅費全部出してもらったけん!!−