僕らの背骨
誠二の住居は比較的都心部にあり、莉奈は迷う事なくそのマンションを見付けられた。
乱立する近代的なその高級マンションは、誰から見ても高校一年生が一人で住むような所ではなかった。
説明するまでもなくそこは誠二の叔父名義で借りられていたが、誠二の大人びたルックスからしてそれ自体は特に問題はなかった。
仮に一般的なアパートなら、近所付き合いで不審がる住人もいただろうが、大都会東京の中核に位置するこの地で、他人に興味を示す"普通の大人"などいる訳もない…。
誠二にとっては都合の良い孤独という必須条件は、東京では無料で"別途付属"されるとも言えるだろう。
しかし莉奈は、そんな薄っぺらい人々の群れを哀れむように辺りを見回し、この誠二の孤独を憎んだ。
これを誠二が望んだ為に自分は孤独になり、誠二もまた一人ぼっちになった。
新たに誠二が莉奈とは別の求愛の先を見つけていたのだとしたら…、莉奈は迷わず誠二を放って置いただろう。
想像をすれば内心張り裂ける想いだったが、莉奈はやはり誠二の孤独には特別な背景が根強く張っている事を心配していた。
自分よりも遥かに頭が良く、優しい擁護者がいるのなら、それに越した事はないと莉奈は冷静に捉えていた。
いつでも影があって、入り込むスキのない誠二の人格は、莉奈自身、自分では支え切れないかもしれない…、と何度となく不安になっていた。
莉奈が誠二以上に今後求愛の先を見つける事はないと思っていたが、求愛と擁護はまるで別物である。
莉奈からの求愛によって誠二が辛くなるのなら、莉奈は気持ちを押し殺し、誠二を忘れようとしただろう。
しかし、誠二がふと見せる笑顔の先に、自分を擁護者だと示唆する素振りが見え隠れすると、その度に莉奈はやはり誠二を守りたいと想うのだった。
その繰り返しがあり、
あの誠二からの"告白"があった…。
−母は父の愛人だった…。−
そのメモを見せられた莉奈は、返答に困った。
誠二の背景は自分が思っていたよりも遥かに濃厚で悲惨な物だ…。
「莉奈にどうして欲しいと…?」
莉奈は聞いた。
−何もしなくて良いんだ。
ただ、俺を理解して欲しい。−