僕らの背骨
莉奈にはまだ分からなかった…。
理解の意味と、その事実を…。
誠二のマンションに着くと莉奈はインターフォンを押した。
数秒してコール音が止むと、莉奈はモニターに写った自分をたった今誠二が見ていると意識した。
恐らく粗いモニター画像からは莉奈の唇の動きは読めない。
莉奈はそれに気付くとメモ帳を出し、伝言を書いた。
−これは叔父さんからの伝言。
"孤独に負けるな"−
莉奈は来るはずもない応答を何故か待った。
しばらく不安な表情を見せながら無言でいると、莉奈はそんな甘えた自分に腹がたった。
一変して怒った表情でまたメモを書くと、それをカメラに見せた。
−わざわざ東京まで来たんだよ!
疲れたし…、お腹減った!−
莉奈は敢えて以前のような奔放な自分のキャラをアピールした。
しかしオートロックが開かれる事はなく、莉奈がメモを下ろした瞬間インターフォンの切られるノイズがロビーに響いた。
その瞬間…、
莉奈は地面にへたり込んだ。
ずっと張っていた緊張がそのノイズによって切られ、半日掛けて縮めた距離に"壁"という悲しき現実が立ちはだかったのだ。
ただ一目でも良い…、
誠二に会いたい…。
その素直な気持ちを何故メモに書かなかったのか…。
莉奈はふと携帯を手にすると、誠二にこんなメールを送った。
−まだ無視するの?
せっかく会いに来たのに…。−
返信が来ないまましばらくすると、他の住人が莉奈を他所にオートロックを外すと、訝しげな視線を莉奈に向けながら通り過ぎて行った。
「やっぱ東京は冷たい人ばかりやけん…。誠二までそんなんに合わせんの…。」
莉奈は本気とも冗談ともとれない言い方でそう呟いた。
莉奈はゆっくり立ち上がり、またインターフォンを押した。
誠二が出て来るまで…、という安易な発想で、莉奈はそれに執着しようとしたのだ。
そしてコール音が鳴り響く…。
二回、三回…。
回数毎に莉奈の精神は削られ、それはまるで自分はもう遠い過去の存在なのだと誠二に言われているようだった。
七回、八回…。
するとその時、また別の住人が入って来た。
インターフォンに鍵穴がある以上、莉奈はその場からどかなければならない。