僕らの背骨
「…………。」
莉奈は急に泣きそうになった。
女性店員にそれを聞かれ、誠二の背景を改めて思い返すと、やはり自分には誠二を支えられず、いずれこの想う気持ちを押し殺さなければならない…。
その事実がこの瞬間莉奈に重くのしかかり、見知らぬ地での孤独感を増幅させてしまった。
「あっ、ごめんね…。ごめんごめん!答えなくて良いからね!お姉さんこう見えて馬鹿だからさ、人の心にドカドカ土足で踏み込んじゃうんだよね。本当にごめん…。」
女性店員は莉奈の悲しげな表情を見て自身の配慮のなさを悔やんで言った。
「…あの、誠二は耳が聞こえないんです…。」
莉奈はポツリと言った。
「……、そうなんだ…。」
女性店員は返答に困った様子で言った。
「……あと、誠二は両親が亡くなってて、生きてる時…、誠二のお母さんは、お父さんの愛人だったって…。」
莉奈は潤んだ瞳を女性店員に向けながら言った。
「………。」
女性店員は悲痛な表情で莉奈のその視線に答えた。
「…そのお父さんは火事で死んで…、お母さんは首を吊って自殺…。」
莉奈は視線を変えずに言った。
「………。」
女性店員はもう聞く事しか出来ない様子で黙り込んでいた。
「…誠二は、莉奈のノートにこう書いて教えてくれた…。」
莉奈はバッグからノートの切れ端を取り出し、それを女性店員に渡した。
−あの火事は事故じゃない。
父は殺されたんだ…。−
女性店員はそれを読むと、視線をそのノートの切れ端から変える事が出来ず、無言で莉奈の"背景"を哀れんでいた。
「…人間が皆辛いなら、莉奈は誠二を好きなままでいて良いの?『誠二は皆と同じだから、なんも悲しむ事なんかないんよ』って…、莉奈はそう誠二を慰めれば良いの?…本当に、それで良いの?」
莉奈の涙はその店の隅でひそかに流され、相対する女性店員とだけ、そんな悲痛を共有をしていた。