僕らの背骨
男は書き終わるとペンだけポケットに戻し、メモを一番最初に書いたページにめくった。
すると突然男は真理の方へ顔を向け、その視線を真っ直ぐ真理の瞳に向けた。
あまりに突然だっただけに、真理は思わず視線を下に逸らしてしまった。
すると真理の視界の隅で男が軽く手を振る動作が見えた。
ふと男に視線を戻すと、男はメモ帳の1ページ目を開き、それが真理に見えるように顔の前までメモ帳を持つ手を伸ばした。
「……えっ、えっ?」
慌てた真理は一瞬男の意図が分からなかったが、数秒してメモの文字を読めという男の意図に気付くと、ゆっくりと書かれている文字を読んだ。
−俺は生れつきが耳が聞こえない。でも相手の話す言葉は唇の動きで理解出来る。−
この衝撃の1ページ目を読み終わると、真理は動揺しながらも男に視線を戻した。
すると男は片手で器用にページをめくった。
−君と俺は異母兄弟だ。
田中幸雄は俺の亡き父で、君の実父でもある。−
1ページ目よりも遥かに衝撃的だった2ページ目のせいで、真理の動揺ははっきりと表情に現れてしまった。
その硬直した真理の顔が2ページ目よりも更に衝撃的だった為、男の方も動揺を隠せないようだった。
慌てて男は予定していた3ページ目を変更し、新たにメモを書き出すと、すぐにそれを真理に読ませた。
−君を傷付けるつもりはない。
どうかこれだけは信じて欲しい、俺は味方だ。−
真理の困惑した表情は相変わらずだった…。
"普通じゃない"出会いはあの手紙の延長線上にあり、全体像を明かさない自分の人生の、"先"ではなく"前"が理由として今うっすらと影を現わし、望んだ自身の理想を、たった一時間で遠い存在にしてしまった。
平穏を望んだ真理と、
もう一人の真理…。
今日は彼女の誕生日であり、
15才の始まりである…。