僕らの背骨
{11月1日 PM 7:28}
真理はソファから立ち上がると、その男に困惑した表情を見せながら店を出て行った。
異母兄弟…?
その疑問を抱えながらも、真理は少しでもその男から距離を置こうと、夜の都会を走り出した。
その視界を流れる景色は、先程真理が電車から見た彩られた光りではなく、ただ眩しく…、騒音にも似た不快な雑音を発していた。
真理にしたらこの男との"初対面"は単純に恐怖として記憶され、やがて何かしらの形で再会するとしても、その恐怖を植え付けた張本人である男を、真理が受け入れられるはずもなかった。
一瞬真理の脳裏に、男の白く整った顔立ちが過ぎった。
あの人は…、
一体何を言いたかったんだろう…。
真理は少なからず自身の早とちりの可能性を考えたが、やはり突拍子もない"提示"だった事は記憶に鮮明で、到底あの店に戻る気にはなれなかった。
その時、真理はトイレに放置したままの"紗耶"の存在を思い出した。
真理は携帯を取り出し、急いで紗耶にメールを打った。
−さっき"下"のソファに変な奴が居て、怖くなったから逃げた…。紗耶まだ店にいる?いるならこっち来て!!南口の銀行の前にいるから!!−
まだ"手紙"の事話してない…。
このままでは今日紗耶を呼んだ意味がなくなってしまう事から、真理は紗耶の心情が寛大である事を祈った。
真理は携帯を手に持ったまま、その返信が来るのを不安そうな顔で待っていた。
目の前を通り過ぎる大人達は、いつもどこかへ向かっていて、立ち止まる事を知らない。
向かう先には光りがあり…、
そして影がある…。