僕らの背骨
「あのさ…、莉奈は今日初めて美紀さんと出会ったばっかりだし、まだそんなに仲良くないから…、今の美紀さんを支えられないと思うから…、さっき言ってた"親友"に、今から会いに行ったら…?話したい事…、沢山あるでしょ?」
莉奈はそう言った。
それが今莉奈に出来る最も自然な提案だった。
「うん…、そのつもり…。ごめんね、なんか…。」
美紀は心底申し訳なさそうに言った。
「全然気にしないで良いよ…。短い時間だったけど、美紀さんと話せて楽しかった…。」
莉奈はそれが自身で本音かどうかも分からずにそう言った。
「…ねぇ、最後にお願いなんだけど、よかったらアドレス交換しよ?せっかく知り合えたんだし…。」
美紀は言った。
「うん!良いよ。」
莉奈はそう言って携帯を取り出すと、赤外線で美紀と携帯アドレスを交換した。
二人は異質なこの状況下を惜しむように苦笑いを交わし、お互いに携帯をしまった。
「また莉奈ちゃんが東京来たら絶対遊ぼうね。約束だよ…。」
美紀は言った。
「うん!その時はご飯食べたり、カラオケ行ったりしよ!」
莉奈は愛らしい笑顔を見せながら言った。
美紀は無言で手を前に差し出すと、小指を立てて莉奈を見つめた。
莉奈は笑顔のままその小指に自分の小指を絡ませ、軽く力を入れて約束を誓った。
「メールしてね…。」
泣いたせいで美紀の声はかすれていた。
「うん!絶対メールするけん!」
莉奈は言った。
「また方言…、超可愛い…。」
最後にまたそんな事を言って、美紀は部屋を出て行った。
莉奈は直ぐさまのぞき穴から美紀が通路を進んで行く姿を確認した。
数秒後、美紀がエレベーターに乗り込む音を確認すると、莉奈は部屋を出て別のエレベーターに乗って一階のボタンを押した。
このまま美紀の後を尾ければ、真理にたどり着く…。
しかし、莉奈はこの計算された自身の行動に多少の嫌悪を感じた。
深く傷ついた美紀を、自分は冷酷にも目的達成の為に軽はずみにも利用している…。
これは間違ってるのではないだろうか…。
莉奈が言う誠二の自己満足と一緒で、莉奈自身がその達成自体で全ては正当化されると思い込み、それに伴う"被害"を蔑ろにしている…。