僕らの背骨
そしてとある一軒家の前で立ち止まると、美紀はまた携帯のメールを打ち出した。
その様子を見て莉奈はこの家が美紀の自宅ではない事を確認し、ふと安心した。
遅い時間という事もあり、美紀は真理に気を遣ってメールで呼び出そうとしているのだろう…、と莉奈は思った。
しかし中々真理からの返信が来ないらしく、美紀はポツンと家の前で立ちすくんでいた。
しばらくすると美紀は疲れたのか、家の向かい側の壁に寄り掛かり、中腰になって真理からのメールを待っていた。
それから間もなくして美紀の携帯から着信メロディが流れ、辺りの静けさを掻き消した。
「………。」
美紀は無言でそのメールを読むと、すぐさま返事を打っていた。
真理は自宅にいるのだろうか…。
莉奈は仮にいた場合を想定して今後の自分の行動をシュミレーションした。
真理があそこの家から出て来て、話し掛ける…?
美紀になんて説明すれば…。
どう考えてもここに自分がいるのは不自然で、美紀も、そして真理にもうまく説明する事は出来ないだろう…。
真理が一人になってから…、どちらにしろ不自然なのは変わらない…。
そもそも真理とは共通の知人がいないのだ…。
しかし…、
誠二がもうすでに真理と接触していたら…。
莉奈は恐怖を感じた。
自分がいかに時間を浪費し、やるべき行為を先延ばしにしたか…。
やはり遅過ぎるだろうか…。
誠二が今日以降に真理に話すはずがない。
莉奈はあの誠二からの告白を回想した…。
−君の母親は人殺しだって。−
そのメモを見せた直後に、誠二は莉奈に一つの条件を提示した。
−田中真理の15才の誕生日に、俺は言うつもりだ。ただ、15年という歳月に意味を持たせるつもりはない。彼女には俺と同じ立場で全てを感じて欲しいんだ。誕生日…、そう、俺も自分の誕生日に知ったんだ…、父が、…秋子に殺された事をね。−
そのメモを全文莉奈が記憶する事は出来なかったが、特徴ある誕生日の日にちだけははっきりと覚えていた。
−真理の誕生日は…、"11月1日"だ。−
今日という日がその真理の誕生日であり、誠二が決めた"告白"の日だった…。