光を背負う、僕ら。―第1楽章―
お母さんが答えるまでの沈黙が、やけに長く感じられた。



お母さんの言い方は、まるで自分はピアニストではなかったような言い方だった。



表情からもその様子は伺えた。



だけどあたしにとってその表情はなんだか悲しく胸に焼き付き、息も止まるような感じがした。




「佐奈は、弾いてないの?」



「…えっ?」




声が裏返った。



心臓もドキッと跳ねる。



お母さんの質問は、あたしのペースを崩したのだ。



思わずぼろが出ないように、一呼吸置いてから口を開く。




「弾いてないよ、もちろん。」



「そう…。」




お母さんの口元が緩む。



よくよく表情を伺うと、安堵したように微笑んでいた。




「約束したもんね。“お母さんが笹川詩織であることを誰にも言わない”ってことと、“もうピアノは弾かない”ってこと。」



「…うん。」




小さくそう呟くと、お母さんは悲しそうに微笑んだ。




「“ピアノを弾かない”って約束は辛いかもしれないけど、許してね。お母さん、どうしてもピアノの音だけは………。」



「わかってる。」




お母さんがすべて言い終わる前に、あたしは言葉をかき消すようにそう言った。




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