光を背負う、僕ら。―第1楽章―
「あっ!あったよ、佐藤君のプリント。」




そう言いながら、プリントの束の中から伸一君のプリントを取り出す。



そしてそれを伸一君に差し出せば、



「わざわざサンキュー。」



と言って伸一君はプリントを受け取った。



そして伸一君は、もといた友達のもとへと溶け込んでいった。




……はぁ。




心の中でため息一つをついた後、またあたしはプリントを配りを再開する。





あたしは、伸一君のことを『佐藤君』と呼ぶ。



そう呼ばざるをえない状況なのだ。




「伸一!」





プリントを配るあたしのすぐ傍を、小春ちゃんがそう彼の名を呼びながら通った。



すれ違う瞬間、思わず胸が苦しくなってうつむく。




「なんだ?小春。」




その伸一君の言葉に、また胸が苦しくなった。



小春ちゃんは伸一君のことを『伸一』と呼び、伸一君は小春ちゃんのことを『小春』と呼ぶ。



二人は付き合っているのだから、それは当たり前のこと。



だけどそれは、いつもあたしの心を苦しめているんだ。





< 118 / 546 >

この作品をシェア

pagetop