光を背負う、僕ら。―第1楽章―
「麻木」
「えっ?」
あたしは突然名前を呼ばれたことに驚きながらも、素早く振り向いていた。
ふと気がつくと、教室にはあたし達しかいない。
聞こえてくるのは、廊下にいる人達や、運動場で部活をしている人達の声。
そして、さっきから聞こえてくる吹奏楽部の演奏だけだ。
振り向くと伸一君は、少し笑顔で口を動かす。
「部活忙しいのに、いろいろとありがとな」
伸一君の笑顔に、胸が締め付けられたようにキュッと苦しくなる。
だけどその苦しさは嫌じゃなくて、あたしの顔を少しだけ綻ばせる。
『ありがとう』
その言葉は、伸一君が言ってくれるだけで魔法の言葉となって、あたしの心に染み渡った。
伸一君の笑顔と、伸一君があたしにくれた魔法の言葉。
こんなあたしに君がそれをくれるだけで、あたしはすごく幸せだ。
そう……。
こんなあたしでも。
心に一瞬モヤッとした気持ちが現われたが、それを振り切るように口を動かした。
「どういたしまして。 部活なら大丈夫だから気にしないで」
微笑んだつもりだけど、ちゃんと微笑んで見えたかな……?