光を背負う、僕ら。―第1楽章―
そんなことにどぎまぎしていると、誰かの声が風に乗ってあたしの耳に入ってきた。
「おーい、伸一! まだ教室にいんのかー!?」
聞いたことのある男子の声だった。
確か、同じクラスの…。
「おう、いるよ! 仁川、どうした?」
伸一君は教室の窓に寄り添い、そこから外に向かって叫んだ。
そうそう。
さっきの声は、同じクラスの仁川君だっけ。
確か伸一君と同じサッカー部で、キャプテンのはず。
自分の中の記憶を探りながら、窓に寄り添う伸一君の横顔を見つめた。
伸一君の髪の毛は窓から入る風でサラサラとなびき、伸一君は仁川君との会話が面白いのかして、時々くしゃっと笑顔になる。
そんな伸一君の横顔を見つめていると、どうしようもないくらい伸一君への気持ちが募っていくのが自分でも分かった。
窓から見える運動場にいるであろう仁川君の声は、時々風のせいで掠れて聞こえてくる。
でも実は、その声さえもあたしの耳には届いていなかったのかもしれない。
仁川君の声。
運動場で部活をしている人達の声。
廊下や他の教室にいる人達の声。
吹奏楽部の演奏。
そして、あたしの胸の鼓動。
それらはもう、あたしの耳には届いていなかった。