光を背負う、僕ら。―第1楽章―
“逃げる”――。




その言葉だけがあたしの心に突き刺さったみたいに離れなかった。




……そうだよ。



むしろ、いっそ。



この世界から逃げてしまいたいよ。



誰にも夢を応援してもらえない。



こんな世界なら、いっそ逃げ出してしまいたい。



どこか、遠くへ……。




床に座っていたあたしは足を抱えて座り込んで、顔を伏せた。



雑音のように聞こえてくるお母さんの声を聞きたくなくて、あたしは耳を塞ごうとする。



すると手がちょうど耳に被さろうとした時、お母さんがまた口を開いた。




「佐奈、出てきてちょうだい。最後までお母さんの話を聞いて。」



「……聞きたくないよ。」




だってもう、十分聞いたでしょう?




あたしはぎゅっと、耳を塞いだ。



耳が痛くなってしまうほど、強い力で。



だけどどうしてもお母さんの声は、ちょっとした隙間から入ってきて聞こえてしまう。




「違うわ。まだちゃんと話せてない。お願いだから、聞いてちょうだい…。」




まるで懇願するようなお母さんの声が、静かな廊下で響いていた。




< 324 / 546 >

この作品をシェア

pagetop