光を背負う、僕ら。―第1楽章―
思わず、涙が出そうになる。




どうして、こんなにも泣きたくなるのだろう。



どうして、悲しくて辛くて、とてつもなく悔しい気持ちになるのだろう。




……どうして、あたしばかり。





本当に、逃げてしまいたかった。



あたしはこんな辛い現実を、望んだことなんてない。



むしろ、幸せを。


自分らしく生きられることを望んだ。




なのに、なのに……。



どうして人生は、こんなにも辛くて仕方ないのだろう…。





「……こうなることがわかってたから、本当のことをすべて言えなかったの。」




ドア越しにお母さんは、落ち着いた声で喋り出した。




「私はただ、恐れてた。佐奈が不幸になることを。」



「………。」



「そもそも、あなたにピアノを弾かないって言う約束をした本当の理由も、それだった。なんだかすごく、怖かったの。私はあんなに大好きだったピアノで、人生が狂ってしまった。もしかしたら佐奈も、ピアノに関わり続けることで不幸になってしまうかも……。そんな考えが、とっさに頭に浮かんだわ。」





< 325 / 546 >

この作品をシェア

pagetop