光を背負う、僕ら。―第１楽章―
お母さんは続けた。




「何が何でも、そうなることは避けたかった。…ううん、避けなくちゃいけなかった。だからあなたがピアノを好きだということを知っていても、無理矢理あんな約束をさせた。今さら信じてもらえないかもしれない。だけどこれが、本当の理由よ。」



「………。」



「あの約束をしてからも、必死だった。私が東條学園のことを話したら、あなたは必ず東條学園に行きたいと言う。だから自分の本当の母校を隠した。そうすれば佐奈は、もう二度とピアノに関わることないと思っていたから……。」



「………っ。」




お母さんが喋っているのを聞く間、涙はとめどもなく流れ続けた。



あたしは口を両手で押さえて、嗚咽を漏らさないようにする。




少しだけ。


少しだけど、嬉しかった。



お母さんがあたしのことを思ってくれていることが、震えて必死に伝えようとする声からひしひしと伝わってきたから。




……でもね、それ以上。



悲しい気持ちの方が大きかったよ。




あたしはただ、ピアノが弾きたかっただけなの。



ピアノが大好きなの。



あんな約束をしても破ってしまうほど、ピアノに夢中だったの。






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