光を背負う、僕ら。―第1楽章―
そしてもともと小春ちゃんに集中していた人々の視線が、さらに小春ちゃんにだけ注がれる。




「…もしかしてあなた、プロピアニストの戸沢香澄さんの娘さん?」



「はい、そうです。」




これだけ注目されているというのに、小春ちゃんはうろたえることなくそうはっきりと答えた。



滝川先生はその驚きの真実に、ただ目を見開く。



周りの人達のどよめく声は、いっそう大きくなった。



それがあまりにもうるさくて、耳が痛くなる。



あまりにもうるさい状況の中で、あたしは顔をしかめながら小春ちゃんを見ていた。



この場の状況に驚くこともうろたえることなく佇む、小春ちゃんの姿を。




…どうして。

どうして小春ちゃんは、こんな状況でも平気でいられるの?



有名人の娘としてこうやって注目されることに、もう慣れてしまっているの?



――それとも。


こうなることを予測して、自ら演奏することを決めたの…?




たくさんの人に囲まれている中で、小春ちゃんはなぜか少しだけ微笑んだ。





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