光を背負う、僕ら。―第1楽章―
――あたしが、ピアノが上手い?


――あたしが、小春ちゃんに劣らない演奏を出来るの?



それを本当だと言える証拠は、誰も持っていない。



それを言った明日美だって、そんなものは持っていない。



もちろんあたしだって、そんなものは持っていなかった。



明日美が言ったのはあくまでも主観的なものであり、客観的なものではない。



だから明日美が言ったことは、本当であるとは限らないんだ。




それをわかっていながらも、明日美がさっきの言葉を言ってくれた時は正直嬉しかった。



いくら明日美の意見とはいえ、ああやって言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。



友達の言葉だからこそ、より嬉しいのかもしれない。




「…ありがとう、明日美。そう言ってもらえるのは嬉しいよ。」



「…佐奈?」



「……でもね、あたしは小春ちゃんには敵わないよ。あたしは、ピアノを習ったことがないんだもん。」




……そう。


あたしはもう、ピアノを習うことも弾くこともしていないのだから。





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