光を背負う、僕ら。―第1楽章―
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…そうだ。

この曲はあたしにとっても、お母さんにとっても、とても大切な曲だった。



…なのに。

どうしてあたしは今まで、そのことを忘れていたのだろう……。





「ねぇあなた、この曲でいいかしら?」




黙り込むあたしを不思議そうに見つめる滝川先生の声で、やっと我に返った。



だけどあたしの意識はまだ記憶の中で彷徨っていて、滝川先生の言葉を認識出来ていない。



だけど、いつまでも黙っていることは出来ない。




「…あっ、はい。その曲にします。」



「分かりました。…ではみなさん、“月の光”を演奏する準備をしてください。」




とりあえずその場を凌ぐために繋いだ言葉で、事はとんとん拍子で進んでいった。



滝川先生の指示を受けて、在校生の人達がさっさと準備に取り掛かる。



それと同時に滝川先生があたしの背中に手をやって、あたしをピアノの前に座らせる。



やっとのことで始まる演奏を待ち侘びる人達の声も、ピークと言えるほど大きくなっていた。





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