光を背負う、僕ら。―第1楽章―
ばれる嘘と秘密
「あたしの、名前は――」
きっと、すべてが運命だった。
あたしが鈴木先生に勧められて、東條学園の体験入学にきたことも。
こうやって、お母さんを知っている学園長に出会ったことも。
……そして。
何を考える訳もなく、簡単に自分の名前を名乗ってしまったことも――。
あたしはゆっくりと口を動かした。
「――麻木、佐奈です」
……何を、疑うこともなく。
「麻木…佐奈…だって?」
学園長はあたしが名乗った名前を、途切れた口調で復唱した。
何かとても衝撃的なことを言われたように、大きく目を見開きながら。
そんな表情を浮かべた学園長は、穏やかな笑みを浮かべていた時や、真剣な表情になっていた時とは180度違って見えた。
「……?」
あたしには、その行動の意味が全く分からない。
名前を名乗っただけでこんなにも驚かれる、その意味が。
学園長の心理が全く分からない。
だからあたしはただ、不気味な不安を抱きながら学園長の顔を見つめた。
学園長が言葉を発してくれるのを待つために。