光を背負う、僕ら。―第1楽章―
「だって佐奈ちゃん、笹川詩織さんのことは知らないって言ってたでしょう?
あれは、お母さんのことを秘密にしていたのよね?」
「…はい」
「だったら、私が問い詰めたら佐奈ちゃんは困っちゃうでしょう?
佐奈ちゃんを困らすようなことを、それ以上は聞かなかった。 それだけのことよ」
先生は余程あたしの質問に可笑しいと思ったのかして、堪えるようにくすくすと笑った。
その様子をあたしはただ、呆気にとられて見ていた。
…先生は、優しいですね。
思いを、そっと心の中で呟いた。
だって、先生は優しすぎる。
あたしはずっと嘘をついて、先生を騙し続けてきた。
だけど先生は嘘を見破っていたにも関わらず、あたしには何も言わなかった。
問い詰めて、責めることなく。
そして今も、ただ笑うだけ。
あまりにも先生が優しすぎて、罪悪感のあまりに胸が痛くなる。
吹奏楽部のメンバーと言い、鈴木先生と言い。
――どうして。
どうして、あたしの周りの人達はみんな優しいのだろう。
どうして、いつしかこんなにもあたしを支えてくれていたのだろう。
周りの人達の優しさに気付いていなかった自分が、どうしようもないくらい恨めしかった。