光を背負う、僕ら。―第1楽章―
「…でも、多少のブランクならやり直すことが出来ますよね?」
「…ええ、佐奈ちゃんの言う通りよ。 ブランクは、乗り越えられないものではないもの」
先生の言葉は前向きなのに、表情は真逆のように後ろ向きだった。
「…でも」という言葉を付け足して先生は言う。
「私はブランクがあるってだけで、ピアニストの夢を諦めてしまったの」
「………」
――どうして?
そう、聞いてみたかった。
だけどそれが出来なかったのは、先生がどこか遠くを見ながら再び話し始めたからだ。
「当時ね、ピアノを辞めるまで教えてもらっていた先生にも相談したの。
これぐらいのブランクだったら大丈夫ですか、って」
「………」
「その先生は、大丈夫よ、って背中を押してくれた。 その言葉はまるで、魔法みたいに私を勇気づけてくれたの」
「………」
「…でもね、現実はそんなに甘くなかった。
だけどそれ以上にきっと、先生の意志が弱かったのだろうけど…」
廊下の空いている窓から吹き込んだ風は、先生の言葉の意味を表すように、生温くてどこか不気味だった。