光を背負う、僕ら。―第1楽章―



「私はきっと、ピアノに対する想いが弱かった。
…佐奈ちゃんのように、心からピアノを愛していなかったの」



「そん…な。
先生だって、十分ピアノが好きですよ。 話を聞いていたら、それは十分伝わってきます」




あたしの言葉を聞いて、先生は悲しそうに瞳を揺らしたあと、優しく微笑んだ。




「ありがとう。 そう言ってもらえて嬉しいわ。
…でもね、やっぱりあたしは弱かったの。
ピアノが好きだって思う気持ちも、笹川さんに憧れる気持ちも」



「………」




もう、何も言えなかった。



だってどんな言葉を言ったとしても、今の状況が変わることはない。



それに先生は、とっくの昔にピアニストへの思いを断ち切っているみたいだから…。




「………」



「ごめんね、佐奈ちゃんに悲しい思いをさせちゃって」




こんなときでもあたしの様子を窺って、なお心配をしてくれる鈴木先生。



その優しさが逆に辛くなって、先生の言葉を否定するために横に振る首に力が入る。



< 494 / 546 >

この作品をシェア

pagetop