光を背負う、僕ら。―第1楽章―



「…佐奈ちゃん。 あなたに一つ質問してもいい?」




先生はさっきまでの雰囲気を切り替えるように、ぽつりぽつりと話し始める。



あたしは隠れるように落とした涙を拭って、先生の言葉に耳を傾けた。




「佐奈ちゃんは、“憧れ”と“尊敬”の違いが分かる?」



「違い…ですか?
どちらも似たような言葉に思いますけど」



「そう、佐奈ちゃんの言う通り。 確かにこの二つの言葉は似ているように思える。
…だけどね、私はちゃんと違いがあるように思えるの」




“憧れ” と “尊敬”



確かにそれは似ているようだけど、必ず違いはあるはず。



その違いがはっきりと分からないあたしに先生は言った。




「私もね、国語の先生ではないからはっきりと自信を持って説明をすることは出来ない。
だけどこの二つの言葉は、ピアノに対する私と佐奈ちゃんの思いと同じだと思うの」



「“憧れ”と“尊敬”が、思いと同じ…?」



「えぇ、そう。
私がピアノや笹川さんに抱いていた思いは“憧れ”であって、佐奈ちゃんがピアニストを目指す思いは“尊敬”であると思うの」



「あの…まだ意味がよく分からないんですけど」




あたしは未だに違いが分からないことに混乱していた。



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