光を背負う、僕ら。―第1楽章―
こんなにも緊張するのは、ピアノを弾くとき以外では初めてかもしれない。
あたしはそう感じるほどに、緊張と不安に押し潰されそうになっていた。
……そのとき。
プレッシャーに怯えている手を、隣にいた鈴木先生がそっと自分の手で包み込んだ。
「えっ、先生…?」
「大丈夫よ、佐奈ちゃん」
突然の行動に驚いているあたしに、先生はあたしの手を両手で優しく包み込みながら言った。
「そんなに怯えなくても大丈夫。
確かに、いきなり学園長室に招かれて緊張するなっていうのは難しいわ。
…でもね、佐奈ちゃんは佐奈ちゃんよ。 たとえ笹川さんの娘だと知られても、その事実に捕らわれる必要はない。
佐奈ちゃんは自分らしく、素直な気持ちで学園長と話をすればいいの。
例えどんなことを言われたとしても、揺らぐことはないわ」
「…はい」
先生はあたしの緊張を解くために、急にあんなことを言ったのだろう。
先生の言葉は今のあたしを認めてくれているみたいで、ほんの少しだけ自信がついた気がする。
そして、いつしか緊張も和らいでいた。