光を背負う、僕ら。―第1楽章―
「おい、こっちにパス回せ!!」
……伸一君の声だ。
そう思って少し気を緩めた時、指が一瞬止まりそうになった。
だけどちゃんと演奏したいという気持ちから、なんとか指は止まることなくメロディーを奏で続けた。
みんなは、一瞬の変化に気付いていないみたいだ。
だけど、あたしの心の中は複雑だった。
さっきの伸一君の声で、あたしの中の嫌な記憶が呼び覚まされたのだ。
そう…。
伸一君と目が合った時の、伸一君のあの反応。
見た目は平然を装いながらピアノの弾いているあたし。
だけど心の中はあの嫌な記憶を思い出したことによって、悲しい気持ちと辛い気持ちで溢れている。
一時的だけど、忘れたつもりだった。
忘れたくて、仕方がなかった。
なのに、どうして思い出しちゃうのかな……。
頭の中とは裏腹に、心は正直だということが思い知らされた。
《音楽は、心の表れ》
ふと、頭の中にこの言葉が浮かんできた。