光を背負う、僕ら。―第1楽章―
鈴木先生の問い掛けに答えたのは、あたしではなく小春ちゃんだった。
「お母さんから聞いたことがあります。 笹川さんは、天才だったって。 確か、18歳でプロのピアニストになったとか」
「そう…。 やっぱり小春ちゃんのお母さん…戸沢さんの無二のライバルと言われただけあって、戸沢さんは知っているのね。 小春ちゃんの言う通り、笹川さんは18歳という若さでプロのピアニストになり、音楽界に名を轟かせたわ」
「でも確か、何かの事故で手を怪我して…」
小春ちゃんの顔が、一瞬にして曇っていく。
鈴木先生の顔も、悲しげな表情に変わっていた。
「ニュースでは詳しく伝えられなかったけど、事故で手を怪我をしたのは事実らしいわ。 そしてその事故の後、音楽界から突如姿を消してしまった。 音楽界にとって笹川さんの引退は、相当な打撃をくらったみたいよ」
「へぇー…。 そんなすごい人がいたんだ」
隣りにいた明日美が、ふとそう呟いた。
「小春ちゃんのお母さんは知ってるけど、笹川さんって人は知らないね」
明日美とは反対側の隣りにいた流歌もそう呟く。
みんなも、ざわざわと呟き出した。