光を背負う、僕ら。―第1楽章―
「そっか、知らないか…。 先生ね、実は笹川さんのファンだったの。 音楽の先生になろうと思ったのも、笹川さんがきっかけ。 もちろん戸沢さんのファンでもあった。 でも先生は戸沢さん以上に、笹川さんの不思議な魅力に惹かれたの。 落ち着ける、優しい音楽に…」
鈴木先生は、遠い目をして言った。
その姿からは、一人のピアニストに憧れる少女の姿が浮かんで見えた。
「私ね、佐奈ちゃんの演奏を聞いた時、すごく笹川さんの演奏に似てるって思ったの。 独特な魅力を出す演奏だなって思った」
先生はあたしと『笹川詩織』というピアニストを重ねて見ている。
あたしはそんな先生を目の前にして、どうしようもない罪悪感みたいなものをひしひしと感じていた。
「…そうですか」
あたしはただその一言を言うと、音楽室の端に置いてあったスクールバックを手に取った。
「…佐奈?」
そんな姿を見た流歌が、不思議そうに声をかけてきた。
そんな流歌に対して坦々と言う。
「下校時間を過ぎてるから、そろそろ帰らないと」
「あっ、そうね! 先生としたことがうっかりしていたわ。 みんな、陽も沈んできたことだし、急いで帰りましょう」