光を背負う、僕ら。―第1楽章―
「……はぁー…」
徐に付いたため息は、思いのほかトイレ内によく響き渡った。
個室の壁に背中を預けながら、ぼんやりと天井を見上げる。
白い天井。
よく見ると、白いはずなのに大分黄ばんでいた。
ドクン…ドクン…
気がつくと、また心臓がバクバクと鳴っていた。
「…バレるかと思った――」
独り言をボソリと呟いたつもりだったけど、その声もまたトイレ内に響いていく。
あたしはただ瞼を伏せて、鼓動が治まっていくのを待った。
鈴木先生と小春ちゃんが知っていた天才ピアニスト。
“笹川詩織”――。
“笹川詩織”は、あたしの母親の旧姓の名前。
…そう、つまり。
あたしの母親は、その“笹川詩織”だ。
――つまり小春ちゃんと同様に、あたしもピアニストの娘なのだ。
だけど、そのことは誰にも言っていない。
言っていないわけではなくて、『言ってはいけない』とお母さんに言われているのだ。
お母さんは自分の正体を誰かに言うことで、あたしが周りの人達に騒がれることを想定してそう言った。
人一倍騒がれる理由があるから、なおさらだった。