光を背負う、僕ら。―第1楽章―
お母さんはさっき二人が言っていた通り、18歳でプロのピアニストになった。
マスコミには“天才ピアニスト”と言われるほどの腕前だったお母さんは、小春ちゃんのお母さんである戸沢香澄さんのライバル的な存在だったんだ。
年齢は戸沢の方が上らしく、戸沢さんが20歳を超えて有名になり始めた頃にお母さんが音楽界に現われた。
お母さんは戸沢さんに負けないぐらい有名になって活躍した。
…そう。
あの事故に遭うまでは……。
さっき話にも出てきていた、お母さんが引退するきっかけにもなった事故。
それは、あたしが小学一年生の時に起きた。
実を言うと、あたしはその事故のことをあまり覚えていない。
覚えているのは、ほんの少しだけ。
あれは両親が二人とも出かけていた日曜日。
お父さんは勤めている会社に出勤していて、お母さんは音楽事務所に出かけていた。
プルルルルルー…
静かな家に響く電話の呼び出し音。
「お母さんが怪我して病院に運ばれた!!」
受話器越しに聞いたお父さんの慌てた声が、一番印象的だった。
それ以外は何が起きたのか、一切分かっていなかった。
ただ家で待っているとお父さんが急いだ様子で帰ってきて、すぐさまあたしは車に乗せられた。
そして、お母さんが運ばれた病院に向かったのだ。