光を背負う、僕ら。―第1楽章―



病院に着くと、待合室にある長椅子にお母さんが一人で座っていた。



所々に貼られた絆創膏と、腕などに巻かれた包帯が目立つ。



その姿が子供ながらに痛々しいと感じたことは覚えている。



お母さんはたくさん怪我をしている中で、右手首に巻かれた包帯だけをずっと見つめていた。



そしてそこを悲しそうに左手で包み、泣いていたんだ。



すごく、悔しそうに……。




あとから聞いたことだけど、お母さんの事故というのは交通事故ではなかったらしい。



何か別の事故らしいけど、あたしは覚えていない。


そもそもあたしには、詳しく説明されていないのかもしれないけど。




――そして、お母さんがピアニストを引退したのはそのすぐ後のことだった。



お母さんの怪我の中で最も重傷だった右手首。



怪我が完治すれば、日常生活に支障はなかったらしい。



だけど怪我をしたことによって、完全なピアノの演奏は出来なくなってしまったらしい。



怪我をした後のお母さんの演奏を聞いたけど、すごく上手いと思った。



だけどそれはお母さんにとって、以前の“天才ピアニスト”と言われた演奏ではなかったんだ。



そのことに絶望したお母さんは音楽事務所や周りの声を押し切って、自らピアニストを引退した。



そして時が経つと、お母さんを取り巻く世間の意見は一瞬にして変貌してしまう。



引退したお母さんを、中傷するマスコミが現われたのだ。



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