光を背負う、僕ら。―第1楽章―
人の感情というものは、とても脆くて残酷だった。
最初マスコミは怪我をしたお母さんを、同情するかのように堂々と取り上げた。
だけど引退をした後、事態は一変して逆転した。
突然引退したお母さんのことを『身勝手』だと騒ぎ出す声が上がり、マスコミはそれに付け込むようにそんな世間の声を前面に出して取り上げていったのだ。
そんな経験があるお母さんは、あたしが“笹川詩織”の娘ということで周りの人に注目されたりして苛められるのでないか…。
そう心配して、“笹川詩織”の娘であるということをあたしに口止めしたのだと思う。
――お母さんが引退してから、約8年が経つ。
世間ではあんなに有名だった“笹川詩織”の名を聞くことも減り、口止めされていることも忘れるぐらいだった。
だけどまさか…。
今になって“笹川詩織”を知る人が現れるなんて…。
二人が知っていたことは想定外で、本当に驚いて気が気ではなかった。
なんせ、バレるかバレないかの瀬戸際。
何かと表情に出やすいあたしは、余計にヒヤヒヤしていた。
…だけど、なんとかバレなくて良かった。
気持ちが大分落ち着いてきたこともあり、ホッと安堵のため息を零す。
バレたことが知られたら、お母さんが黙っていないもんね…。