光を背負う、僕ら。―第1楽章―
結べたと思ったら緩かったり、力を入れすぎたせいでスルッと紐がほどけたりする。



焦れば焦るほど、それが続いた。



あたしが靴紐に苦戦する中、小春ちゃんと伸一君の会話が続く。




「やけに今日は遅かったな。」




そう言いながら古びた傘立てにもたれ掛かる伸一君の姿は、うつむいていても目の端で確認できた。




「うん、ピアノ弾いてたから遅くなっちゃった。」




小春ちゃんの声に混じって何かの音がした。



きっと、靴を地面に軽く投げた音だろう。



その証拠に、靴のつまさきを地面にトントンとする音も聞こえる。



ふと思った。




この状況、明らかにあたし達って邪魔者?




今昇降口にいるのは、小春ちゃん、伸一君、明日美、流歌、そしてあたしの五人。



会話をしているのは小春ちゃんと伸一君のみ。



あたしを含める三人は、誰一人口を開こうとはしない。



うっかりすると、二人の会話に聞き耳を立てているようにも思われる状況だ。



実際あたしは、聞いているけれど。



ましてや二人が付き合っているとなると、ここはあたし達が気を使ってさっさとこの場を去るべきなんじゃ…?



< 91 / 546 >

この作品をシェア

pagetop