追っかけバンドマン
「え?どういうこと?」
「あの…、分からないんです。あたしの理由が。」
「ん?」
「沢北さんがあたしと一緒に歌おうって思う理由が分からないんです。
沢北さん、すごく歌上手いけど、あたしわ並み程度だし…、あたしがいなくたって沢北さんわ、オーディションに受かると思うんです。
現に、ライブをやったって、歓声を浴びるのわ、沢北さん。
あたしがいくら歌ったって、沢北さんを引き立てるばっか。
…こんなこと言うの恥ずかしいんですけど…、沢北さんばっかで、歌うのが…辛いんです…。」
あたしなんかが隣にいても、意味なんてこれっぽっちも、きっと無い。
それならいっそ、いない方がいい。
このままじゃ、沢北さんに嫉妬ばかりして、ますます良い歌が歌え無い。
そしたら、沢北さんに迷惑がかかる。
だからあたしわ、歌わない方が良い。
「美香ちゃん、それ本気?」
「…本気です。」
これ以上一緒にいたら、決心が鈍って、辞めれなくなって、ますます辛くなってしまうから、あたしわその場を走り出した。
「ごめんなさい。」
それだけ言って。