あなたのペット的生活
「孝ちゃん?入るよ〜?」
一言断ってから部屋の扉を開ける。
と……膨らんでいるであろうはずのベッドには膨らみはなく、プリントが散らばっていた机の上はどういうわけか整えられている。
壁にかけてあった孝ちゃんのお気に入りのTシャツはハンガーだけぶら下がっていて、大きな大きな旅行用のスーツケースがなくなっている。
その人っ気のない部屋の前でただボンヤリとしていた。
腰から崩れるように座りこみ、ヒザの上で拳を握り締めた。
どうして……
夜に出発だって言ってたのに。
「ちがう!!こんなところで座ってる場合じゃない!!!!」
そのまま急いで立ち上がり、松葉杖を脇に挟む。
こんなとき、なんで骨折なんかしてんだろってギブスのついた役立たずの足が憎らしくなった。
ゆっくりとしか降りることのできない階段も、何もかもが恨めしい。