執事とお嬢様、それから私
「では私はこれで失礼いたします。…余計な小言ではありますが、お酒はほどほどになさって下さい」
その言葉に部屋の前で顔を真っ赤にする私。
「…すみません」
「いいえ…では、おやすみなさい」
そういった彼はクルリと向きを変えて来た道を戻ろうとした。
これで、いいの?
「あの!!!!」
「はい?」
意外に大きいじぶの声に驚きながら、彼が振り返ってくれたことに安堵した。
「もし、よろしければ連絡先を…後日改めてお礼させて下さい」
「いえ、おかまいなく」
間髪いれずに返される言葉に拳をぎゅっと握る。
「でも、私、私…お願いします」
ばっと頭を下げる。自分のパンプスの先を眺めながら私はこんなにしつこい女だったろうかとなぜか泣きたくなった。
はぁ、と聞こえた溜め息に溜まった涙が落ちそうになる。
「…これが連絡先です。仕事中は難しいですが、なるべく、でます。」
「えっ!?」
まさかくれるとはおもっていなかった。
選ぶように言葉を発する彼に私は満面の笑みを向け、小さな紙をうけとった。
「…俺も大概どうかしてるな」
と吐息のような呟きに名刺に向けていた顔を戻すと
「では、失礼いたします」
と彼は足早にその場を去っていった。