空になりたかった海
「なんで?好きな人んとこ行けばいいのに」


私が言うと、母はこれ見よがしにため息をついて

「まったく、なんであんたはそんな子に育ったんだろうね。我が家の一大事でしょ、少しは悩みなさいよ」

と非難してきた。


挙げ句の果てには、

「髪、長いからいじくるんでしょ、うっとうしいなら切りなさい」

などとからんできた。


私が黙っていると、母はでっかいトランクを持ってきた。


「ねぇ、光。これ、お父さんに届けてくれない?」
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