子供じゃない。
旅館の近くの散歩道で母さんが言った。

「ありがとう」

何にたいしてのありがとうか、よくわからなかった。

だけど………涙がでそうになった。

それから母さんは言った。

「よろしくたのむね」って。

だから、ぼくは心配かけまいと精一杯の笑顔で、生意気に「こどもじゃないんだから」と、言った。

母さんは少しきょとんとした表情を見せたけど、すぐに「そうね。こどもじゃないね」って、笑いながら言った。

目にはこぼれだしそうなほど涙を浮かべていたけれど。
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