泣いたら、泣くから。
奏斗は私のもとへ歩み寄ると胸ぐらを掴んだ。
目が血走って、真っ赤だった。涙が浮いて、光が揺れていた。
首のあたりに痛みが走ったけれど、気にはならなかった。
ぶつかって感じる痛みより、胸の奥をえぐられたような吐き気さえおぼえる苦しみのほうが今の私にはよほどのダメージだった。
奏斗は涙を隠さず私を揺さぶった。
「なんとか言えよ!」
頬に触れる奏斗の息は熱く、制服を掴む手は震えていた。
人形のようにぐったりと、私はただなされるがまま奏斗の言葉を聞いていた。
「おまえなんかに義兄さんは渡さない。渡すもんか! 姉貴の、生涯たった一度の恋をおまえなんかで汚させるか! 姉貴がいなくなっても、この俺がいる。俺がいる限り、義兄さんは誰にも――」
そのとき。喉の奥が奇妙にふるえた。
直後、音が口の端から漏れてくる。
「……奪えるなんて、思ってない」
ふるえる喉から上がってきた声は、なんとか言葉をつむいだ。
奏斗の骨張った手を掴み、力を振りしぼって見つめ返す。
目から伝わる圧力が半端じゃなかった。油断したら膝から崩れてしまいそうだと思った。
視線が交わった瞬間、奏斗の眉間にしわが寄り、ほそまった目から雫が落ちた。
指先を濡らしたのは熱のこもった涙。
奏斗が私を憎んで流した、傷ついた心の目に見える形。
心が涙という姿をとって、こぼれ落ちた結晶。
指先に力を込めて、私は告白した。