泣いたら、泣くから。
「叔父さんを、恭介さんのことを、私は心から愛してる。 ――たぶん、真由さんが叔父さんと知り合う前から、私は叔父さんだけだった」
「てめぇ……っ!」
ぐっと首もとをしめられ一瞬、呼吸が出来なくなった。
奏斗の理性がもう限界寸前なのか、それとも、このまま私を突き落とすつもりなのだろうか。ここは屋上。落ちたら即死だ。
けれど不思議と、休み中に感じたような恐怖はなかった。死を目前にして冷静になっているのか、もはや感覚が麻痺してしまったか。思わず苦笑した。
頭に血がのぼるのを感じながら私は続けた。「だけど、心配しないで」
「私は常に引火寸前の爆弾を抱えてる。だから、叔父さんを愛し続けることは不可能なの」
一緒の時間を過ごすことも、恋人になることも、結婚することも、なにひとつ出来ない。
「もちろん、子供を産むこともね」
いくら望んだって、私にはどの一つも叶わない。
叔父が真由さんを忘れられない気持ちももちろんあるし、私が姪だからという壁もあるだろう。
だが、叶えられないのは叔父のことだけではない。
「私にはもう、時間も、体力もないんだよ」
不意に奏斗の目が、涙のせいではなく、揺らいだように見えた。
低い声で奏斗は尋ねる。
「……どういうことだ」
「言ったとおり。 この状況で嘘が言えると思う?」
こんなときに冗談が言える人間がいたらそれは相当神経が太いヤツだけだと思う。
私の言葉に隠された意味を酌み取ったらしい奏斗ははっと目を開き。
「まさか、おまえ………」
苦虫を噛み潰したような顔をした。
二人の間に沈黙が落ちる。
と、ガチャッと勢いよく屋上のドアが開いて人が出てきた。
そして、私と奏斗に気づくと、半狂乱になって叫んだ。
「なにしてるの!」