泣いたら、泣くから。
友の声が空気を裂いた。
顔を真っ赤にした咲希が息を切らせて駆け寄ってくる。
奏斗から私を引きはがし、背中に庇うようにして間に立ちはだかった。
咲希の呼吸は乱れ、彼女から流れてくる熱が熱い。
どうやら走って私を探しに来たようだ。
「さ、さき……げほっ、どうし、て、ここ」
「授業がはじまる前から探し回ってたのよ! あんたこんなとこでなにしてんの!」
顔は向けず、むせる私を怒鳴りつけた。
相当心配をかけたらしい。顔を上げられなくなった。
「おまえなんだ。こいつの仲間か」
「あんた、4組の柴崎奏斗でしょ。一花をどうする気だったの」
咲希の言葉に、一瞬でも揺らいだはずの奏斗の目は鋭いそれに戻ってしまった。
彼の瞳に、情などという余裕はわずかにも感じられなかった。
こわい。
奏斗の口から低い声がこぼれる。
「……さぁ?」
「さぁってあんたねえ!」
咲希と奏斗の間に火花が散った。
私のことで二人が争う理由は一つもない。
やめて、お願いだから睨み合わないで。これ以上だれも傷つかないで。
しかし祈る思いは声にならない。
喉を上がって口から吐き出されるのは苦しみから来る咳だけだった。
誰か、二人を止めて。お願い、誰か――。
「どけ女。俺が用があるのは中澤一花だ」
「どかない。あんたこそさっさと教室もどんなさいよ。いっとくけど今は授業中よ」
「邪魔だっつってんだろ!」
奏斗の腕が振り上がった。
握られた拳が空を舞う。
咲希がぎゅっと目をつぶった。
動けない自分に腹立たしさをおぼえた。このままじゃ咲希が………!!
――……………だ、誰か!!!!
「――なにやってんだ柴崎!」
屋上に太い声が轟いた。
祈りが届いたのか、叫んだ男らしき坊主頭が開いたドアからこちらをのぞいていた。