泣いたら、泣くから。
あの人……――。
「すぎもと……」
「杉下」
ほぼ同時に咲希と奏斗の声が重なった。
一方は安堵感から来る声、そしてもうひとつは驚きから来るそれだった。
そうだ、彼は体育委員の学年代表の杉本君。
杉下はなにが起こっているのかわからず戸惑った顔をしながらも、奏斗がしようとしていることは危険なことだと察したのか、大股で近づいて奏斗の腕を掴んだ。
「おい柴崎。この手はなんだ、なあ!?」
奏斗はなにも言わなかった。
さすがの奏斗も関係ない者が二人も割り込んだことで落ち着きを取り戻してきたのか、乱暴に掴まれた手を振り払うとそのまま顔を背けた。
よかった。
咲希が傷つかなくて、ほんとうに、よかった……。
「おい咲希。なにがあったんだ」
「ちょっと、いろいろ。説明するのは難しいかも。それよりどうして杉下がここに?」
「俺? 俺はサボりで寝に来て――」
言いかけて、杉下はばっと口を手で覆った。
まずい、彼の顔はそう言っていた。
しかし、怒られると思ったらしい杉下の焦りとは裏腹に咲希の顔にはぱっと笑顔の花が咲いた。
「ありがとう杉下。助かったよ」
「お? おう。なんかよくわかんねえけど、よかったな咲希」