泣いたら、泣くから。
笑い合う幼なじみの向こうに視線を移すと、奏斗が唇を引き結んで床を睨み付けていた。憎悪の炎はまだまだ音を立てて彼の中で燃えたぎっているのだろう。
たぶん、私がこの場から――叔父の前から、消えない限りずっと。
ふらふらと手を伸ばしかすれる声で言った。「しばさき……わたし……」
「もうすこしだけ、あと少しで、いいから。私に……」
ほんのわずかだけでいい、贅沢は言わないから。
どうか、お願い。
私に、彼と会う時間を与えて。叔父と会うことを許して。
私の言葉に奏斗はぴくっと反応した。そして、びゅっと拳を握りしめた。
鼻から上の部分が、よく見えない。
奏斗が今、どんな表情をしているのかはわからないけれど、きっと苦しんでいるのだろう。怒りに震えているのだろう。
この期に及んでもまだ私は彼を傷つけようとしている。
奏斗はなにも言わないけれど、握られた拳は、私を殴りたくてしょうがないのかもしれない。
わずかにしか残ってない理性でなんとか襲いかかるのを踏みとどまっているのが、小刻みにふるれる背中から伝わってくる。
殴りたいなら、殴ってくれてかまわない。
だけど、
殴るなら、かわりに時間をちょうだい。
叔父に会う時間を。
叔父にすべてを告げる時間を、どうか。
私には時間が、どうしても必要なのだ。