泣いたら、泣くから。

三章-2



 仕事を終え、着替えを済ませて外に出ると、知り合いの後ろ姿を門のそばに見つけた。
 ドアが閉まった音に反応して振り向いた顔は、やはりそうだった。


「今日は部活ないのかい、奏斗君?」


 奏斗は返事をすることなくただ黙って頭を下げた。

 どうしたのと言いつつ歩み寄ると、よく日に灼けた顔には険しいような、苦しいような、複雑な表情が浮かんでいた。


「奏斗くん――」
「姉貴を裏切るのか?」


 わたしの声とのあいだに隙間を作らず少年は言った。

 いろいろな感情が込められたような、ひどく重みのある一言がどしんとわたしの心に落ちてきた。


 姉貴を裏切る?


 それが間違いなくわたしに向けられた言葉だとすれば、



 わたしが、真由を、裏切るのか、という質問である。



 不意に頭の中に姪の顔が浮かんで狼狽えた。どうしてこのタイミングで彼女なのだろう。
 なんとか平静を装い、どうしてと返すと、奏斗は驚きの言葉を返した。「見たんだ、俺……」 



「なにをだい?」


 ひどく言いずらそう――いや、言いたくなさそうに、眉を寄せ、頬を引きつらせてから。


「祭のとき見たんだ。中澤と、中澤一花と義兄さんが一緒にいるところ。あと」
「……あと?」



 


 ――あと、49日の夜も……あいつ……来てたろ。






 わたしは目を見開いた。



 まさかあの夜、奏斗もあの場にいたのか。







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